いい仕事してますね
中島 誠之助
「開運!なんでも鑑定団」

青年時代に油絵をこころみて後に陶芸の道に進む陶芸家がいる。こういう作家はその成長の過程で偶然にちかいきっかけで陶芸の面白さを知って陶芸家として大成していくものだ。おそらく彼はそのまま一生を油絵作家として過ごしても、画家としての第一人者になっていたであろうに違いないのだ。

世に天才と呼ばれる陶芸家は大抵このような道をたどって現れるものだ。安倍安人の歩き方を見ていると、やはりこのような道をたどって今日に至っていることが分かる。そしてこのような道をたどる作家は思考が自由奔放であり、かつ作陶に対しては緻密である。ふつう奔放と緻密は両立しないものだが、すぐれた作家はこの両方をしっかりと自分のものにしている。 なぜ安倍安人がこの相反する両者を自己のものとして表現できるのだろうかという疑問が起きるが、それは安倍の今日にいたるまでの仕事を観察すれば容易に分かることだ。

ひとことでいえば、安倍安人が伝統を大切にして作品の原点を理解しているということだ。それは安倍の備前焼には、400年前の桃山時代の古備前の美意識が咀嚼されて作品の芯を形作っているために完璧でいい加減な箇所がないということになる。そして作品そのものを見せるのではなく、作品の向こう側に焦点を結んで鑑賞するように構成されているために、鑑賞者をして不思議な思考に誘い込む。だから見飽きないし、もう一度鑑賞してみようという魅力に満ちているのだ。

伝統をしっかり身に付けて、その上で造形に発展していくという基本形が堅固に決まっているから、安倍安人の作品は現代陶芸の最先端を行くのだ。そして安倍はさらにどこへ進んでいくものかわからない。本人も分かっていないのではないか。だから私たちは流動する安倍の美意識をどこで捕まえるかという心躍るような楽しみに満たされる。これこそが「いい仕事してますね」といえるのだ。




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