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門脇 |
で、先生の場合はS先生のところへ手紙が来て。 |
安倍 |
そうそう、2年前にね。 |
門脇 |
ふーん。 |
安倍 |
それには、ぼくに入れる意思があるかないか打診してみてくれと。作家のほうにその意思がなかったら、この話はなかったことにしてください、と書いてるんです。 |
門脇 |
はい。 |
安倍 |
実に淡々と。(笑) 冷たいぐらい。
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門脇 |
ハァ。それで、意図がよくわからなかったと。 |
安倍 |
読んでみたところが、まわりくどい。こう、なんちゅうか、ぼくらが文書を書くような、そういう文章じゃないんです。実に淡々としとるんです。「入れる気が、作家にあるかないか…。」 |
門脇 |
はい。 |
安倍 |
「打診してくれと。それで、なかったら、この話はなかったことにして下さい。」たったそれだけのことです。(笑) |
門脇 |
ほぅー。 |
安倍 |
実に、あまりにそっけないんです。 |
門脇 |
はいはい。 |
安倍 |
あまりにそっけないから…。 |
門脇 |
はい。 |
安倍 |
あまりにそっけないし、いまいち理解しづらいので、ぼくもほっておったんです。 |
門脇 |
はぁー。 |
安倍 |
それにぼくはね、正直言うて、いつも自分の気持ちの中に負い目があましてね。それが何か言うと、賞もなければ学歴もない、そればっかりですから。だから、こんなもん、立ち向かって行ったところでこれは無駄だと思っとったわけです。 |
門脇 |
はぁはぁ。 |
安倍 |
Sさん所で1年引き出しの中にあった。で、そのあと1年余り、ぼくのところにほってあったんです。 |
門脇 |
なるほど。 |
安倍 |
これは、もう無駄なことだから、余計なエネルギーを使わんでいいと。 |
門脇 |
後でガッカリするようなら。 |
安倍 |
そうそう。 |
門脇 |
はなからしない方がいいと。ほとんど忘れていた? |
安倍 |
えぇ。それでたまたま川島さんが来られたんです。 |
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